ISHIDA

 日本国際政治学会は、1956年に結成されました。本学会は、結成当初は任意団体でありましたが、1959年に財団法人の設立認可を受け、さらに2012年に一般財団法人に移行して現在に至っています。2016年には創立60周年を迎えました。
学会創設期に学会に集った会員を結び、繋いだ結節点は、太平洋戦争の開戦原因を実証的に解明するという共通の関心事でした。その研究成果は、『太平洋戦争への道』(全七巻および別巻資料編、朝日新聞社、1962-63年)(英訳版は Japan’s Road to the Pacific War, 5 Volumes, Columbia University Press)に結実しました。
その後も、第二次世界大戦の敗戦国たる日本にとって、サンフランシスコ講和会議に参加しなかった諸国との関係修復が重要な外交課題となったこともあって、国交正常化の外交史的研究は本学会の主要な研究課題の一つであり続けてきましたが、本学会の研究活動は、外交史研究を含みつつも、それに限定されない多様性を持つものになりました。現在の年次研究大会では、理論、歴史、地域、非国家主体の4ブロックに大別される21の研究分科会が多様なセッションを繰り広げています。また、この4ブロック間のバランスを意識しながら、企画・研究委員会は部会プログラムを企画し、編集委員会は学会誌『国際政治』の特集号を企画しています。
かつてへドリー・ブル(Hedley Bull)が、その論文 “International Theory: The Case for a Classical Approach,” World Politics (1966), Vol. 18, No.3の中で、国際政治学においては、政治思想、歴史、国際法の知的伝統を汲む古典的アプローチと、一般命題の厳密な数理的証明や経験的検証を指向する科学的アプローチが競合するに至った、との1960年代当時の状況認識を示したうえで、前者の擁護論を展開したことはよく知られています。日本では、大学における組織編成上、アメリカのように、国際政治学の教育・研究が外交史や国際法のそれと制度的に切断されなかった(アメリカでは、歴史学部における外交史の教育・研究、ロー・スクールにおける国際法の教育・研究は、政治学部における国際政治の研究・教育と制度的に切断されています)こともあって、国際政治学において科学的アプローチが知的覇権を握ることもなく、方法論的には学際的な広がりを誇ってきました。国際社会において対等な処遇をうける主体とは何か、国家間における主要な争点とは何か、また特定争点をめぐり、国際的に正統であると認識される現状とは何か――このような時空間の文脈を意識する歴史的、社会的な視座は、日本の国際政治学の伝統の一部であり続けてきたのです。
また学会の研究活動も、国内にとどまらず、国際的な広がりを持つものです。学会創立40周年を記念して、1996年9月20日~22日に日本コンベンション・センター(幕張)において、北米を拠点とする国際関係学会(International Studies Association)と日本国際政治学会との合同国際会議(国外からの参加は42ヶ国、398名にのぼりました)を開催したほか、韓国国際政治学会(Korean Association of International Studies)とは、年次研究大会の場を利用して合同部会を開催するなど国際的な研究交流を続けています。また2001年から、英文学会誌International Relations of the Asia-Pacific をOxford University Pressから刊行するなど、研究成果の対外発信にも積極的に取り組んできました。
このように多様性、学際性、国際性を持つがゆえに、本学会は、会員を結び、繋ぐ結節点を模索し続けてきました。学術的なアイデンティティをめぐる本学会の思索の跡は、川田侃・二宮三郎「日本における国際政治学の発達」『国際政治』第9号(1959年)、「特集――戦後日本の国際政治学」『国際政治』第61・62合併号(1979年)、日本国際政治学会編『日本の国際政治学(全4巻)』有斐閣(2009年)、さらに近年の研究大会における部会企画に目を向ければ、「日本におけるリアリズムの伝統とその足跡」(2010年度研究大会)「日本の国際政治学――学会のあり方と学問のあり方」(2012年度研究大会)「日本の国際政治学を考える――学問のあり方と教育のあり方」(2013年度研究大会)「日本の国際政治学を考える――日本のリベラリズムの再検討」(2014年度研究大会)等に見ることができます。
このように結節点の所在を確認しつつ、日本における国際政治研究をこれまで以上に知的活力あるものにしたいと考えております。

一般財団法人日本国際政治学会 理事長(2016年―2018年) 石田 淳(東京大学)