日本国際政治学会第9回奨励賞決定のお知らせ
2016年度国際政治学会奨励賞選出理由
本年度の学会奨励賞は、黒田友哉会員の「EC/アセアン関係の制度化 一九六七-一九七五年」(182号)に決定いたしました。その評価については以下の通りです。
受賞作黒田論文は、EUとASEAN諸国の関係の分水嶺となる1970年代前半をASEAN成立期までさかのぼり、EUとASEANという二つの多国間の枠組みの間での制度的関係の構築がなぜ、どのようになされたのかをECの側から明らかにした、従来の分野でいえば外交史的アプローチによる業績である。
黒田論文の概要は以下のとおりである。ECはASEANの政治的重要性に鑑み、1971年のASEANによる東南アジア中立化構想(ZOPFAN)の提案に関心を持ったが、当時の非公式な交渉の中でそれは実現しなかった。しかしその後EC委員会対外関係担当相ソームズの努力でEC・ASEAN関係の公式な制度が議論され、国際情勢やEC自身がリージョナルなアプローチからグローバルなアプローチに転換していく中で1975年には、両地域の条約による契約関係締結までの「暫定的な期間」JSG(共同研究グループ)を設置するにいたった。
学術的な位置づけとして黒田論文は、「暗黒の時代」と呼ばれる70年代から80年代の時期、決してECは内外の活動を停滞化させていたわけではなかったという、いわば「修正主義」の立場に分類される。そしてこの論文はASEANとの関係を切り口として、第三世界全体に行動を拡大しようとした当時のECの積極性に配慮した広い視野からの実証研究である。
先ず、黒田論文については、伝統的な外交史的なアプローチをとったオーソドックスで手堅い業績であることで委員は一致した。英独仏の新しい外交文書を渉猟し、EC主要国の立場を綿密に分析した本論文は候補作のなかではもっとも努力の形跡が見られる論文と見なされた。
第二に、研究動向の上では、ECとASEANとの関係の起源を整理した作品であり、我が国での研究領域の手薄な分野をカバーしている点でも高く評価された。また欧米の研究動向の中でも70年代のECの対外発展、とくにアジアへの発展についての研究は近年ようやく活発になってきており、黒田論文が国際的な研究動向をキャッチアップしている点も委員会では指摘された。
第三に、黒田論文は説明論理の明快さ、説得性の点でも他の候補作に比べてすぐれているという意見が選考委員のなかから出された。
ただし黒田論文には、以下のような難点があるという指摘もあった。「ASEAN」とせず、「アセアン」というカタカナ表記は本学会の他の論稿では一般的ではなく、違和感があること、表記ミス(とくに英文表記)、注記上の不注意なども散見されるというものであった。こうした点については作者の意識を今後高めてもらうことを前提にして最終的に黒田論文を受賞作とすることで委員全員が合意した。
(国際政治学会奨励賞選考委員会主任 渡邊啓貴)
第9回日本国際政治学会奨励賞受賞の挨拶
黒田友哉
ご紹介にあずかりました学術振興会特別研究員の黒田友哉です。
このたびは、日本国際政治学会奨励賞を受賞出来まして、大変光栄に存じます。査読に当たって下さった先生方、審査員の先生方、ならびに取りまとめをしてくださった遠藤貢先生には深く感謝いたします。
この賞の受賞は、まさに青天の霹靂でしたけれども、受賞出来ましたということを考えると、私の狙いが部分的には成功したといえるのかもしれません。
論文の内容と背景を少しお話します。私は、ヨーロッパとアジアの相対的地位が変化する転換期として、1967年から75年までのEC/ASEAN関係の制度化をとりあげました。そのなかで考慮したのは、まず、地域主義と地域主義間の関係を、どのように二者間関係(ECとASEAN加盟国、EC加盟国とASEAN)と関連づけるかということでした。まとめると、EC側は共通通商政策の発足という制度上の要因を背景として、EC全体としてプレゼンスを高める戦略からASEANあるいはASEAN加盟国と交渉するようになります。一方のASEANは、ECと違いそのような制度的理由は弱く、加盟国間の連帯による影響力拡大という利益から、ASEAN加盟国個別ではなくて、ASEAN全体としてECとの関係構築を図るようになったのです。このような流れで、EC・ASEANの地域主義間関係が制度化されていきました。
もうひとつの重要な論文の背景として、フランス留学を語らずにはいられません。私は、大学院時代にフランスに数年留学しましたが、そこで得た結論は、第二次世界大戦後のヨーロッパ・アジア関係が研究史上の空白であり、アジア人である私が埋めるべき立場にいるということでした。その結果、日本の修士課程、博士課程で研究していたヨーロッパ・アフリカ関係からヨーロッパ・アジア関係へと研究テーマをシフトするにいたりました。
このようなことが拙稿の背景です。もちろん、この論文が生まれるまでに非常に多くの障害があり、それを乗り越えることができたのは、数えきれないほど多くの方の支援や日々の交流のおかげです。
しかしながら、時間の関係上、御礼は6人に絞らせていただくことにします。まずは、大学院時代の指導教授である田中俊郎先生、学術振興会特別研究員PDの受入教授である中西寛先生、そして影の指導教授であり、いつも草稿に貴重なコメントをくださった細谷雄一先生、フランスで指導してくださった統合史家のジェラール・ボシュア先生、共著に誘い鍛えてくださった遠藤乾先生、草稿に数々の貴重なコメントをくださった山本健先生です。
最後に、私の研究の今後の展望をお話しします。現在、英国のEU離脱決定、難民問題とEUは危機にある一方、ASEANは昨年末の一応の共同体成立で統合を進めており、以前にもまして地域統合とは何か、が問われているのではないかと思います。そのようななか、研究の蓄積が比較的すくないEU-アジア関係やEU途上国関係の研究を今後も実証的な歴史研究を行っていきたいと思っております。今後ともご指導よろしくお願いいたします。
学会奨励賞授賞式(2016年10月15日)