国際政治学会第5回奨励賞決定のお知らせ (2012年11月1日)

国際政治学会第5回奨励賞決定

選定にあたって

 学会奨励賞選考委員会は、2012年度(第5回)の学会奨励賞を、山尾大「反体制勢力に対する外部アクターの影響」(『国際政治』166号)へ贈ることを決定した。今年度の選考対象となった論文は、全部で25篇(2011年度の発刊された『国際政治』165号、166号、167号、168号、及び International Relations of the Asia-Pacific,Vol.11, No.2, 3, 2011所収)である。第一段階審査では、委員の評価が分かれ、山尾論文が相対的に高い評価を得た。第二段階審査では、山尾論文に絞って最優秀論文にふさわしいか、選定を行った結果、委員全員が一致して山尾大論文を推すことになった次第である。

 本論文は、大きな体制転換を経験した紛争国において、新政権を担う勢力が、亡命期に外部アクターから受けた影響が、国家建設の過程で内政にどう作用しているのかという問題を、イラクを事例にして分析したものである。2003年、米軍の侵攻によってバアス党政権が崩壊したイラクでは、元亡命イスラーム主義政党による連立政権が成立したが、連立の中心を占めるイスラーム主義政党間での対立が激化している。本論文では、このイスラーム主義政党間での対立を、各政治勢力が亡命期に受けた歴史的影響、そして国際政治における外部アクターからの影響に着目し、こうした外部アクターの影響が、国家建設期の「再建すべき国家のあり方」をめぐる対立の根本的な原因となっていることを明らかにしている。

 この論文は、特に以下の点が評価された。第一に、イラクにおける政治対立という複雑な問題を、それらが反体制勢力として亡命活動をしていた時期の活動および外部アクターとの関係という軸で明快に整理したことである。とりわけ、「イスラーム主義の堅持」と「民主主義・ナショナリズムの受容」という国家建設における志向性の差が亡命期の活動に起因するという主張が、新たな一次資料や現地でのインタビュー調査などによって説得的に論じられている。第二に、この研究は、紛争後の国家建設における外部アクターの影響に関する議論の重要性を提示し、今後の研究への広がりを持っている。

 亡命勢力が亡命期に外国で受けた影響や、帰国後の外部との関係という問題は、これまでも植民地からの独立・亡命勢力が帰還した国家建設過程などにおいて断片的に論じられてきたが、必ずしも正面から取り上げられてはこなかった。本論文では、この問題を中心論題に取り上げて、国家建設期の政治勢力の対立を、亡命期および帰国後の外部勢力からの影響という観点から解明する視角を提示し、今後一層重要性が増すと思われるこの分野の研究の展開に貢献している。第三に、本論文は、イラク政治を実証的に分析し、現在の政治対立を歴史的な背景に位置づけると同時に、地域研究を国際政治の中でとらえる作業を自覚的に行っており、当該地域の専門家でない研究者に開かれた明快な分析がなされている。国際政治研究の重要な一角をなす地域研究の価値を示した論文として高く評価されよう。

(学会賞奨励賞選考委員会主任 吉川 元)  

受賞の言葉

 このたびは、第5回学会奨励賞という大変な栄誉を賜りまして、本当にありがとうございました。何よりもまず、恩師である京都大学の小杉泰先生にご報告申し上げるとともに、これまでのご指導に深謝いたします。

 私は、2003年のイラク戦争を経て政権党となったイスラーム主義政党が、半世紀におよぶ反体制活動のなかでどのような変容を遂げたのか、その政治史の解明に取り組んできました。地下活動が長かったため、近隣諸国や欧州に散らばった資料を収集することには、大きな困難がともないましたが、多くの先生方やイラクの人々のご支援をいただき、何とか形にまとめることができました。受賞いたしました拙稿は、イスラーム主義政党が反体制期に外部アクターから受けた多様な影響が、戦後の政権運営にいかなるインパクトを与えているか、という問題を明らかにしたものでございます。

 研究を進めるにあたり、聞き取り調査や現地一次資料の精査に立脚する地域研究の方法論をとってきました。そのなかで、研究対象の実態をより良く理解するために意味ある「問い」を発掘し、そして意義ある答えを導出するにはどうすればいいか、ずっとこのことばかり考えてきたように思います。さらに、私にとって課題であったのは、内在的に掘り起こした「問い」を、学術的な理論とどのように接合していくのか、という点でありました。こうした方法こそが研究対象の理解を深める、と信じてやってきましたが、中東やイラクをめぐる国際政治の理解に少しでも新たな知見を加えることができたとすれば、望外の喜びでございます。身にあまる光栄を賜りましたことを励みに、今後より一層精進していきたいと存じます。

 最後になりましたが、常日頃よりご指導をいただいております学会の先生方、査読をしていただいた匿名のレフリーの先生方、現在の職場である九州大学の先生方、とくに松井康浩先生と益尾知佐子先生に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

(山尾 大)