日本国際政治学会第12回奨励賞決定のお知らせ

2019年度の学会奨励賞は、帶谷俊輔会員の「『強制的連盟』と『協議的連盟』の狭間で」『国際政治』第193号(2018年9月)に決まりました。以下、首藤もと子・審査委員長からの講評と、帶谷会員の「受賞の言葉」を掲載します。

2019年度日本国際政治学会 学会奨励賞の選考について

 選考委員会は、18本の論文を対象にして、7月28日に第1次選考を行い、その上位2本の論文を対象に8月5日に第2次選考を行った。その結果、帶谷俊輔著「『強制的連盟』と『協議的連盟』の狭間で―国際連盟改革論の位相」(『国際政治』193号)を、受賞候補論文として理事会に推薦することに全会一致で合意した。

 帶谷論文は、国際連盟の集団安全保障機能について、連盟規約には当初から協調と強制という2つの方向性が内在したことを述べ、その2つの国際連盟像をめぐる議論が、戦間期にどのように展開したかについて論じている。本論文は、大きく次の4つの対比を軸にした構成になっている。
 第1は時代の対比である。1920年代にはイギリスの連盟外交が中心となり、制裁ではなく、調停と協調路線が展開されたが、1930年代には、国際連盟改革論のなかで、大国間協調による「協議的連盟」に対して、中国が制裁を伴う「強制的連盟」像を提示したことが、多くの一次史料を用いて描かれている。とくに、イギリスと中国の姿勢が実証的に分析されており、中国の役割について独自の知見を提示している。第2に、イギリス(大国)と中国(小国)の対応を対照的にとらえることにより、とくに1930年代後半に、イギリスが大国中心的な「協議的連盟」に固執した一方、中国(国民政府)が制裁を含む「強制的連盟」を主張した経緯や、国際連盟の対イタリア制裁に中南米諸国が反感を強め制裁懐疑論が出たことを論じている。第3に、「協議的連盟」は理事会が主な舞台であったのに対して、中国の「強制的連盟」論は、国際世論に訴えるうえで効果的な総会の場で行われたことを論じている。そこで、「協議的連盟」と「強制的連盟」の対比は、「非公式な事前協議に依存した大国間協調による連盟運営」と「公式な制度に則った総会における決定」との対比であったことが浮き彫りにされている。第4に、戦間期の国際秩序をめぐる議論が国際連盟の失敗として終わるのではなく、「強制的連盟」論の想定した要件は、米英ソと並ぶ大国となった中国を通して、国連憲章第7章に明文化されたという指摘も重要である。
 近年、国際連盟の活動を再評価する研究は多いが、それらが社会的・文化的な面を重視しているのに対し、本論文は、集団安全保障機能について新たな視点からの議論を展開しており、国際連盟研究の進展に大きく資する論文である。また、「協議的連盟」と「強制的連盟」の継続性と変化を長期の枠組みでとらえ、国連への単純な継承や断絶の議論には収まらない動態的な議論を展開している。それはまた、今日の国際秩序を検討する際にも示唆に富む内容である。
 ただし、議論の経緯については、もう少し整理して論じる工夫があればよかったという意見も出された。しかし、総じて本論文は、国際連盟史料やイギリスの外交文書および台湾にある外交部档案や国民政府档案等の一次史料を丹念に読み込んで執筆された力作であり、国際連盟の研究や国際政治史研究として高く評価できる。

(学会奨励賞選考委員会主任 首藤とも子)

第12回日本国際政治学会奨励賞受賞の挨拶

帶谷俊輔

 この度は名誉ある賞を頂きまして大変光栄に存じます。まずは選考委員の先生方、第193号編集の篠原初枝先生、そして二名の匿名の査読者の先生方に厚くお礼を申し上げます。
 受賞論文は、国際連盟における普遍・地域関係を扱った博士論文を提出した後で、国際連盟と国際連合の継続性に着目しながら国際連合の起源を再検討する研究に取り組むにあたり、博士論文と新しい研究のブリッジとして執筆したものです。国連創設においては、アメリカとソ連がそれぞれ連盟の非加盟国、除名国だったこともあり連盟の歴史との断絶が過剰にアピールされました。そこで、国連の性質の起源を憲章の起草過程のみならず、連盟の運営のなかで構築された「強制的連盟」「協議的連盟」といった国際機構像や連盟に関する学知に探ることを試みています。連盟期に集団安全保障の相対化が行われていたこと、国連憲章につながるような集団安全保障強化論が既に出ていた一方でそれに対する懐疑論も強かったこと、そしてその集団安全保障に対する懐疑は実際の国連の展開を先取りしていたことを明らかにしております。受賞を励みに、今後は1950年頃まで、第二次世界大戦中及び創設後初期の国連の展開を対象に研究を進めていく所存です。
 最後に修士課程以来ご指導を頂いている酒井哲哉先生、川島真先生、後藤春美先生、日本学術振興会特別研究員(PD)の受入研究者を引き受けて頂いた細谷雄一先生に感謝を述べさせて頂きます。
 この度は誠にありがとうございました。


学会奨励賞授賞式(2019年10月19日)