国際政治学会第6回奨励賞決定のお知らせ (2013年10月31日)

国際政治学会第6回奨励賞決定

選定にあたって

 2013年度(第6回)の学会奨励賞は、崔慶原「日韓安全保障関係の形成―分断体制下の『安保危機』への対応、1968年」(『国際政治』170号)に決定しました。
 選考対象となった論文は、合計22篇(2012年度に発刊された『国際政治』169号、170号、171号、172号、及びInternational Relations of the Asia-Pacific, Vol. 13, No. 1, 2013)でありました。
 9月19日に開催された学会奨励賞選考委員会において、第一段階審査では、2篇の論文に同じ点数の高い評価が与えられ、第二段階審査では、この二つの論文を対象に、多面的な評価と議論を行い、その結果、出席した審査委員全員の一致した意見として、崔慶原論文を受賞論文に推薦するに至りました。
 崔慶原論文は、1968年のいわゆる「安保危機」をめぐる対応の中、日韓の安全保障関係が形成され、それが後に「安保経済協力」と呼ばれる日韓安保協力の起源となった過程を実証的に解明したものであります。崔論文は、1968年を朝鮮半島情勢においても一つの転機として位置付けています。つまり、北朝鮮の特殊部隊による青瓦台(韓国大統領府)襲撃や後方浸透など、全面戦争ではないが、武力による「間接侵略」という新たな脅威が台頭したという点です。それに対し、全面戦争への抑止を根幹とする米韓相互防衛条約体制を補完するものとして、警察装備支援を中心とした日韓の安全保障協力の可能性が日米韓の間で模索され、佐藤政権も「武器輸出三原則」を迂回する形で、警備艇の提供方針を固めたが、最終的には韓国の国内政治や「対日不信」により、実現には至らなかった過程が詳細に分析されています。しかし、その過程で、日韓間で安全保障においても「協力可能な領域」を見出そうする発想が形成され、後の「安保経済協力」につながる「初期の事例」と位置付けています。
 この論文は、以下の点で高く評価されました。第一に、関係各国の一次史料を幅広く渉猟した実証性の高さです。1960~70年代の朝鮮半島をめぐる国際関係については、各国の外交文書を用いた実証研究が活況を呈していますが、その中でも、崔慶原論文は、米韓でなく、日本の外交文書をも詳細に調べ、新しい知見を提示しています。第二に、分析視点においても、従来の研究が米国の働きかけや北朝鮮脅威認識などに焦点を合わせているのに対して、日韓の政治状況や政策決定過程を明らかにしようとした点であります。こうした作業を通して、崔論文は、日韓の安全保障関係における変化と連続の構図を実証的かつ概念的に描き出すことに成功しているといえます。
 今年の審査においても、問題関心の多様性や分析の水準などで、意欲的で優れた論考が多かったというのが選考委員の共通した印象でありました。ただ、掲載論文の長さの制約もあり、理論、歴史、地域研究、イッシュなどの分野間で評価基準が異なる傾向は今後の課題として付言しておきます。

(学会賞奨励賞選考委員会主任 李鍾元)

受賞の言葉

 このたび、第6回学会奨励賞をいただける、この上ない栄誉を賜りまして、本当にありがとうございます。選考委員会の先生方、そして、投稿論文に対して有益なコメントをくださった査読者の先生方に心よりお礼申し上げます。何よりも、これまで指導してくださった、小此木政夫先生に感謝申し上げたいと思います。
 今回の受賞論文は、韓国社会に混乱を引き起こし経済発展を妨害しようと、北朝鮮が武装ゲリラを韓国に頻繁に侵入させていた1960年代末を扱ったものです。従来の全面戦争の脅威とは異なる「間接侵略」という新たな脅威が出てきていました。それに対し、日韓両国は、アメリカとの同盟で全面戦争を阻止できるとした上で、ゲリラ掃討に当たる韓国警察の装備強化への協力を模索します。日本政府内では、「武器輸出三原則」との関連性をめぐり、外務省や通産省、法制局を巻き込んでの議論が展開されましたが、協力に前向きな外務省と当時の政権による政治判断で韓国警察の装備支援をする方針を固めました。
 本論文で、私は、アメリカとの同盟関係を共通基盤としながら、日韓両国がどのように安保脅威を特定し、協力可能な領域を見出していったのかを描こうとしました。アメリカとの同盟から生まれてくる構造的な安保関係にとどまらない、日韓安保協力の潜在性がそこに示されていると思ったからです。当時の日本外務省が評価したように、この過程を通じて両国の間に「地域的連帯感」が生まれ、それを土台に「安保経済協力」が重視されるようになりました。
 その後、日韓は70年代の地域秩序の変動の中で、ともに核兵器を持てない国であること、またアメリカとの同盟なしには安全保障は確保できない、という両国の置かれている状況を確認しつつ、協力を模索しました。
 最近、日韓の間ではご承知のように政治摩擦が続いています。しかし、日韓を取り巻く東アジア地域秩序からみれば、両国は様々な共通課題を抱えていると思います。共通基盤を認識しながら、協力可能なアジェンダをどのように設定し、それをどのような形にしていけるかが問われています。この困難な作業に一研究者として、貢献していけるのであるならば、幸いでございます。今回の受賞を励みに、今後、より一層精進していきたいと存じます。
 どうもありがとうございました。

(崔慶原)  


学会奨励賞授賞式(2013年10月26日)