JAIR Newsletter
日本国際政治学会ニューズレター
No.102 June 2004

国際関係:変化するものとしないもの

赤根谷達雄(筑波大学)

 わたしは長らく筑波大学の国際総合学類(学部に相当)で「国際関係論」の講義を担当してきた。今年も新入生を迎え、お決まりの仕方で、国際関係論のイントロダクションを行った。国際関係が日本あるいは自分たちの身近な生活にとってどのくらい重要であるか具体例をあげて説明した後、国際関係の変化と継続性に注意を喚起し、その両方を理解することが重要ですよと強調する。これがわたしのお決まりのイントロダクションである。
 今年の新入生には、昨今の日本経済の沈滞と、その遠因としての1980 年代の日米経済摩擦、プラザ合意とその後の急激な円高、バブルの発生と崩壊といった事例をあげて説明した。しかし残念なことにこれらの出来事は、学生にとってはあまりなじみのあるものではなかったようである。そこで学生に生まれた年を尋ねてみた。返事を聞いてびっくり仰天。1985 年生まれ。つまりプラザ合意の年に生まれたのである。
 新入生がこれまで生きてきた時間は思った以上に短く、その短い人生が彼らの参照枠組みとなる。1991 年の湾岸戦争以前の学生についていうと、それまで長らく軍事・安全保障問題は平和国家日本とは無関係であるかのような時代が続き、その頃、かれらに人気のある国際政治の話題というと地球環境問題であったり、途上国の開発問題であったりした。しかしここ数年来、安全保障問題への学生の関心が急速に高まっているようである。それもそのはず。2001 年の9・11 テロ事件からアフガニスタン戦争、昨年のイラク戦争と続き、その間、日本は自衛隊を海外に派遣した。今年の新入生は物心がついた頃から戦争の時代を生きてきたのである。わたしは新入生に、アメリカのブッシュ大統領がイラク攻撃の準備を整え、サダム・フセインに対し48 時間以内の国外退去を通告したとき、両国の指導者が直面していた困難は、古代ギリシャの都市国家の指導者がペロポネス戦争の際に直面していた困難と同じ性質のものである。国際政治の本質は変わらないと説明しておいた。
 国際関係の継続性より、変化について実感してもらうことの方が意外と難しい。国際関係の変化といえばグローバリゼーションであろう。しかしグローバリゼーションのただ中で生まれ育った世代には、それを実感するのがかえって難しいのである。
 幕末、勝海舟の乗った咸臨丸は1 カ月以上かけてサンフランシスコに到達した。日本と外国の人の往来が飛躍的に容易になったのは、第二次大戦後、航空機が本格的に利用されるようになってからである。1954 年、初の国際線となる東京=ウェーキ=ホノルル=サンフランシスコ線が開設された。週2 往復、片道650 ドル(約23 万円)。この運賃は当時の大卒初任給の27 倍という高額なものであった。そして所要時間は18 時間以上であった。現在は、多数の航空会社がニューヨークへの直行便を運行している(所要時間12〜13 時間)。
 通信も長足の進歩を遂げた。かつて手紙だけが伝達手段であった時、情報の伝達速度は人やものの移動速度と同じであった。電信や電話が誕生してから速度は飛躍的に増したが、しばらくの間、国際通信の料金はべらぼうに高く一般の市民が日常的に利用できるようなしろものではなかった。普通の人が料金をほとんど意識することなく国際的に情報をやりとりできるようになったのはインターネットが本格的に普及するようになってからであろう。わたしからするとそれはついこの間のことである。しかし今年の新入生は、インターネットを当たり前のことと思っている。
 交通や通信手段の発達はグローバリゼーションを促し、国際社会に甚大な影響を及ぼしてきた。スポーツの国際化はその顕著な例である。今年、米国大リーグのニューヨーク・ヤンキースはデビルレイズとの開幕戦を東京ドームで行った。ヤンキースが公式シーズンの開幕戦を北米以外で行ったのは初めてである。ヤンキースの松井が東京ドームでホームランを打ったその日、シンガポールではワールドカップ・アジア一次予選の試合が行われた。中田英寿選手など欧州で活躍している3 人の日本のサッカー選手はその前日現地入りし、日本から出向いた選手と合流した。若い学生は、このような現象もごく当たり前のことと思っていることであろう。
 相撲といえば長らく日本の国技であったが、今日の角界で一番活躍しているのは外国出身の力士である。昨年の初場所は幕内、十両、幕下、三段目、序二段、序ノ口の六階級のうち五階級の優勝は外国人力士で、序二段優勝だけが日本人であった。横綱朝青龍はモンゴルのヒーローである。相撲の国際化も若い世代には違和感がない。しかしわたしにとってみると大きな変化である。
 ここ数年来、テレビや新聞で毎日のように大リーグ情報が提供されている。このような現象は、今年の大学新入生には、少し新しいけれどごく普通のことと捉えられているようである。わたしは授業で強調しておいた。半世紀後に振り返ってみなさい。そうすればきっと今日の情報・通信革命の意味に気づかされることであろう。そして、わたしたちはグローバリゼーションという激動のさなかに生きてきたのであると。様々な理由はあったものの、第二次大戦前、日本の首相が米国の大統領と直接会談を行う機会は一度もなかった。大戦以降は首脳の相互訪問が盛んになった。首脳の多角外交も盛んになった。1975 年のランブイエ会議以来、サミットは毎年開かれている。1993 年のシアトル会議以降、APEC 首脳会議も毎年開かれている。首相と大統領はその気になれば手元の電話ですぐに会話することができる。このようなことが第二次大戦以前に可能であったならば歴史は違っていたかもしれない、と思うのだが。

2003年度研究大会概要(2)

≪部会概要≫

部会7  日韓国際政治学会合同シンポジウム Regionalism in East Asia:Between Theories and the Realities

 1997 年に第1 回日韓国際政治学会合同シンポジウムが韓国で開催されて以来、ほぼ毎年、日本もしくは韓国で合同シンポジウムが行われてきた。昨年度より、日本で開催するときは年次研究大会における部会として企画されている。
 今年度は東アジアの地域主義について理論と現実の双方から議論することを目的として、まずKim Byungki 教授(高麗大学)から”Russian Regional Security Policy since September 11”と題するペーパーをもとに報告がなされた。キム報告では、ロシアがヨーロッパではNATO の東方拡大に象徴されるように外交的に守勢に立たされているのに対して、北東アジアでは冷戦時代と状況は変わらないどころか、むしろ、中国との関係は改善され、また、北朝鮮と韓国の双方に対して影響を及ぼしうるというように好ましい状況に置かれているという。
 大庭三枝会員(東京理科大学)からは”Anatomy of East Asian Regionalism: Development beyond ASEAN+3?”というペーパーに基づき、東アジアにおける地域主義について報告がなされた。大庭報告では、アジアの奇跡で象徴される時期においては、アジア諸国は、保護主義の台頭への警戒心および経済的繁栄から生まれる自信を共有することにより、アジア地域主義は発展し、また、アジアの経済危機に際しては、ASEAN+3 の制度化が進展することになったと主張した。さらに、ASEAN+3 では日本と中国が相互に意識した外交を展開しているが、ASEAN も決して受け身というわけではないという。また、FTA が地域主義に及ぼす影響については判断が難しいものの、重要な問題となってくることを示唆する。
 以上の報告に対して、Ki-Sup Sohn 氏(ソウル大学)および大芝亮会員より、ロシアとASEAN ではテロが地域主義の発展におよぼす影響が好対照であることが指摘された。すなわち、キム報告によれば、ロシアでは、チェチェンにおけるテロのために、分離独立こそもっとも回避すべき目標であるとされ、シベリアにおいても、北東アジア地域協力への参加よりも、ロシアの国家統合が最優先されることになったのに対して、大庭報告はASEAN ではテロへの対抗もまた地域的枠組みを発展させる要因と理解しているからである。
 このほか、地域主義について考えるとき、エリートのアイデンティティとマス・レベルでのアイデンティティのいずれが重要なのか、もしマス・レベルでのアイデンティティも大いに関連するとすれば、大庭報告も指摘する日本の支配という歴史的要因は、利益の共有の発展により、地域主義に及ぼす影響は低下しているのだろうかといった問いがだされた。
 こののち、フロアーから利益とアイデンティティの関係、マス・レベルのアイデンティティの問題の重要性などの議論があり、また、アジアの奇跡に象徴される高成長はAPEC のような地域的枠組みの発展に寄与し、アジアの危機はASEAN+3 という地域的枠組みの成長を促進したのではないかという議論も提示された。
 2003 年度の合同シンポジウムについては、日韓文化交流基金より助成をうけ、韓国国際関係学会(KAIS)からは以下の5 名が参加した。姜太勲(Kang, Taehoon,Dankook University、President of KAIS)、金栄哉(Kim, Yong-Jae, Chongju University、Secretary General of KAIS)、安清市(Ahn, Chung-Si, Seoul National University, President elect for KAIS,2004)、金炳基(Kim, Byungki, Korea University)、孫基燮(Sohn, Ki-Sup, Seoul National University)。
(大芝亮:一橋大学)

≪分科会概要≫

分科会C-9  理論と方法1

 本分科会は報告題目からも明らかなように、国際政治理論の基本概念である「規範」と「選好」に焦点を絞り、理論分析を進める上での課題について考察した。まず太田宏会員(青山学院大学)の報告「国際政治における規範・制度の再検討」は、国際安全保障問題に例を借りて、国際社会における規範の形成、発展そして制度化の過程を、また地球環境問題の一つである気候変動問題の文脈において、「公正」という規範とその政策的含意という見地から、規範の役割と制度化の問題を整理した。
 次に杉之原真子会員(コロンビア大学大学院)の報告「国際政治学における選好の再検討」は、多くの事例研究が、主体の行動選択を、事後的に選択を正当化するような選好の「仮定」に基づいて説明しているのはトートロジーであることを指摘した。その上で、日米金融交渉を事例として、日本の金融当局の選好形成に関して異なる仮定を置いた場合、戦略的な相互依存状況の下で、それぞれが交渉結果とどのように結びつくかを考察した。討論者の五月女律子会員(藤女子大学)は、太田報告に対して、国際政治における規範の役割を評価しつつ、規範が共有されたとしても一致して特定の政策が支持されるわけではない点を指摘し、杉之原報告に対しては、数理モデルの有用性を評価しつつ、事例研究との組み合わせ方における問題点を指摘した。
 なお、セッション終了後、次期の「理論と方法」分科会責任者に飯田敬輔会員(青山学院大学)が選出された。
(石田淳:東京大学)

分科会C-11  国際政治経済学1

 地球環境問題のテーマを扱った本分科会では、最初に高橋若菜会員(宇都宮大学)が越境大気汚染問題をめぐる欧州の環境協力について報告し、問題認識、政策提案及び行動変化の各ガバナンス・プロセスで異なる力学が働くことが詳細な事例研究によって示された。
 続いて蟹江憲史会員(東京工業大学)が多国間環境交渉におけるリーダーシップの在り方について報告し、パワー、知識及び交渉技術などの諸要素の組合せが重要であることが指摘された。
 高橋報告に対しては、加害国の経済発展のレベルが被害国のそれに比べて高かったことが重要ではなかったか、また蟹江報告に対しては、リーダーシップが国内政治状況によって発揮できない場合があるのではないか、といったコメントが討論者の亀山康子会員(国立環境研究所)から出された。またフロアからは、環境協力におけるNGO の役割やリーダーシップ概念の操作化の問題などに関して質問があった。
(山田高敬:上智大学)

分科会E-7  理論と方法2

 制度の枠内において、どのような条件の下で国際協力は実現するだろうか。この問いに対する関心は、近年、貿易の自由化から大量破壊兵器の不拡散まで、国際政治学の専門分野の垣根を越えて急速な広がりを見せている。鈴木基史会員(京都大学)の報告「民主国家と非民主国家の政策協調と国際制度」は、まさに前述の条件を理論的に解明しようとするものであった。想定されるのは、国際的には民主国家と非民主国家との間で、国際公共財のために財政的な負担を分担するという状況であり、国内的には一定規模の予算を、政府が政権維持を目的として公共財と私的財の二部門に分配するという状況である。民主国家と非民主国家の関係は、投資家と企業家との関係にも似て、後者の行動を前者は直接的に観察できない。この条件(情報の非対称性)の下で、両者が締結する「最適契約」とはどのようなものか。これこそが、この理論分析の課題であった。これに対して、討論者の河野勝会員(早稲田大学)は、因果メカニズムを明示する上でモデル構築は有効であるとした上で、公共財への財政的貢献として「制度への参加」を概念化することの妥当性も含めて若干の疑問点を指摘したが、基本的に、異なる国内政治体制を持つ国家間の相互作用が国際制度の有効性にどのように影響するかを分析しようとする着想の独創性を高く評価した。時間枠という制約の下ではあったが、満員のフロアとの間の質疑応答も、分析の今後の発展を予感させるものだった。
(石田淳:東京大学)

《分科会活動報告》

《「理論と方法」分科会の活動報告》

 2003 年9 月18 日、東京大学社会科学研究所において、以下の研究会を開催致しました。

 題目:英国学派と国際政治理論
 報告者:菅波英美氏(キール大学)

 国際政治の理論的研究に対して英国学派はいかなる貢献をもたらしうるだろうか。このように課題を設定した上で、菅波報告は、「経験的事象の因果説明」、「規範的な前提から帰結に至る論理の解明」、そして「国際政治についてのディスコースの思想・哲学的批判」という観点から多面的に英国学派国際関係論の学問的成り立ちについて考察を加えた。これに対して討論者の芝崎厚士氏(東京大学)は、日本における学問論にも言及しつつ、多様な国際関係理解がなぜ生まれ、そして多様性の中の協働ははたして可能であろうか、という点に注意を喚起した。さらに研究会出席者も議論に加わり、国際社会における規範の変容(進化)に関する歴史的研究という英国学派の着想とその起源(法学の影響)などが論じられた。望ましい理論とは何かということにとどまらず、それについて多様な回答が存在するのはなぜか、ということまで考えることを迫られる貴重な機会となった。
(石田淳:東京大学)

<<海外学会参加記>>

アメリカ対外関係史学会に参加して
(簑原俊洋:神戸大学)

 2003 年6 月、国際学術交流基金の助成金を得て、ワシントンで開催されたアメリカ対外関係史学会(Society for Historians of American Foreign Relations,SHAFR)において研究報告を行うことができた。私が参加した”New Interpretations of U.S.―Japanese Relations”と題されたセッション(Panel10)は、総勢5 人で構成されていた。司会はニンコヴィッチ教授(St.John’s University)、討論者はガリキオ教授(Villanova University)が努めた。他2 名の報告者は、いずれも日本からの研究者であり(名古屋大学の井口治夫助教授、及び愛知学院大学の柴山太助教授)、正しく「日米合同」のパネルとなった。そのためもあってか、平均して10〜15 人の聴衆が入るセッションに、30 人近くの出席者をえた。
 第一報告であった私の論題は”Diplomatic Blowback:The Role of Intelligence and Japan’s Decision for War”であったが、OHP を使用しながら第二次大戦前の日本の外交暗号解読の歴史について説明し、その後、開戦決定過程に暗号解読情報がもたらした影響に関する所見を述べた。従来、日本政府には米国の外交暗号を解読する能力はなかったと理解されていたため、報告に対する関心はかなり高く、最後のディスカッションでは質問の集中砲火を浴びることとなった。なかでも特筆すべきは、アメリカを代表する暗号スペシャリストのカーン(David Kahn)、エイド(Mathew Aid)、そしてウォーナー(Michael Warner)が出席し、積極的にディスカッションに参加したことである。カーン氏とはヤードリと日本政府との関係をめぐる解釈で議論し、残り二人とは暗号解読技術に関するテクニカルな問題に関して多くの意見を交換した。
 暗号研究(情報史)は、その性質上、未だに機密事項となっている文書が少なくない。とりわけ、アメリカが使用していた暗号になると、情報は極端に不足する。そのようなことから、学会報告を通して行われたアメリカ側の専門家とのディスカッションは、大変有意義なものとなり、今後の研究にも大いに活用できる成果を得ることができた。

【追記】
 余談であるが、セッション終了後に南カリフォルニア大学のディングマン教授(Roger Dingman)とお話をする機会があり、以前と比べて同学会における日本からの研究者のプレゼンスが顕著に少なくなったことを憂慮されていた(この度の学会でも、日本からの参加者は私のパネルの三人だけであった)。アメリカにおいて日本に対する関心が低下していることを鑑みると、SHAFR と日本国際政治学会間にフォーマルな交流の機会があっていいのではないかとのことであった。

アメリカ・アジア学会(ASA)参加記
(浅野豊美:中京大学)

 筆者は、このたび国際学術交流基金の助成を得て、サンディエゴで開催されたアメリカ・アジア学会(Association for Asian Studies)に出席した。発表パネルは、”The Ambiguous Borders of Colonial Authority”と題し、カリフォルニア州立大学大学院生のエリク・エッセルストロームさんが組織した。司会者は、かつて私が『植民地』(読売出版社、1996年)の翻訳をしたマーク・ピーティ氏、ディスカッサントはペンシルベニア大学のフレデリック・ディッキンソン氏であった。近年、帝国に関する議論が盛んであるが、このパネルは資料実証的な視点から、第二次大戦前の日本外務省に付属した領事館警察組織の朝鮮・台湾・満州での展開を追うものであった。特に、日清戦後の中国や日露戦前の朝鮮国に設置された日本領事館が、治外法権・治外行政権を根拠として、現地在留日本人社会、及び帝国臣民としての朝鮮人・台湾人社会といかなる関係を有したのか、中国本土や満州等、民族主義が盛んとなりつつあった現地の文脈や、日本の帝国主義政策との関係から議論せんとする論文が並んだ。アメリカのアジア研究の中では社会史のアプローチがすっかり主流となった感があるが、今回は外交史的アプローチをとるアメリカの若手研究者が確かに存在し続けており、軽い議論に食傷気味の状況下で、硬くはあるが「消化によい」(ディッキンソン氏コメント)アプローチが再び脚光を浴びる日が来るであろうことを予感する機会となった。私は、台湾海峡の社会的人流に注目し、台湾総督府の方でも「台湾統治とは対岸経営である」(後藤新平)という観点から、台湾総督府所属警察官を対岸に派遣し、廈門領事館等に駐在させた経緯を追った。現代、破綻状態の地域の国際管理と国家再建が注目を浴びているが、こうした視点から不安定だった日本周辺地域の管理体制を吟味し、日本帝国内部の社会・政治構造や法制度と結びつけながら対外政策の展開を幅広く論じることが重要となろうと感じた次第である。

オーストラリア日本研究学会に出席して
(松井佳子:大東文化大学非常勤講師)

 2003 年7 月2 日から7 月4 日、オーストラリアのクイーズランド工科大学においてJapanese StudiesAssociation of Australia 主催による学会が開催された。報告者は国際学術交流基金による助成を受け、「外交」分科会において、「カンボジア和平プロセスにおけるオーストラリアと日本」(Australia and Japan in the Cambodian Peace Process)の報告を行なった。これは、紛争が長期化し、複数の第三者が関与した和平プ口セスについて、特にオーストラリアと日本が第三者としていかなる仲介的役割を果たしたのか、という観点から分析を試みたものである。報告後、討論者の高橋雅二元駐豪大使からは、大使としてオーストラリア外交に精通し、また実際にカンボジア紛争に関する国際会議にも参加された際の経験などに言及された貴重なコメントを寄せていただいた。もう一人の討論者であるDavid Walton 西シドニー大学講師からは、日豪両国間のポリシーネットワークが地域紛争解決においていかなる意味を持ったのかという観点から、ご自身の研究分野である東ティモールにおけるオーストラリアの役割に関する事例についてご説明いただくなど今後の研究のための貴重なアドバイスを寄せていただいた。フロアからも元駐日オーストラリア大使からコメントが寄せられるなど、研究者はもちろんのこと、日豪両国の外交に直接関わった方々からも報告に対する様々なコメントを得ることができ、大変有意義な経験となった。

《EU Institute in Japan(EUIJ)開設のお知らせ》

 欧州委員会の競争入札による補助金を一橋大学、国際基督教大学、東京外国語大学、津田塾大学の4校から成るコンソーシアムが受注し、EUIJ が本年4月に発足した。
 EUIJ はEU の中核的学術研究拠点(COE)として日本では初めて設置された(米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの主要大学拠点に既設)。EU に関する教育・研究、実業界や市民に向けてのEU に関する情報発信を担う。6 月に日・EU首脳会議で来日するプローディ欧州委員会委員長をお迎えして、開設の記念行事が予定されている。
 4大学間では、EU に関する共通授業の設置、客員教授の欧州からの招聘、教材の開発、大学院生向け研究補助、EU 関連機関などでのインターンシップ制度、EU 関係図書の整備などが実現する。2006 年度からは放送大学でEU に関する授業も開講する。
 学術交流面では、EU 研究・教育の中心である、欧州大学院(ブルージュ)、欧州大学院機構(EUI、フローレンス)などと協力関係を樹立した。4 大学が個別に有する、欧州の大学との既存の協力関係も強化される。
 2005 年1 月にはEU に関する第一回の国際会議を国際基督教大学において開催する予定である。(詳細は決定次第、同大学のHP および立ち上がり次第、EUIJ のHP に掲載する)。日本の関連学会やEU 研究者ともひろく交流することになっている。EU 情報の普及については、ビジネスセミナー、市民向け公開講演、ウェブサイト、ニューズレター発行などを計画している。拠点事務局(一橋大学)には、欧州委員会が発行する広報資料などを集め、公開することを検討中である。
(EUIJ 学術交流部門幹事:植田隆子)

≪事務局便り≫

 ○第8回運営委員会が2004 年5 月22 日(土)正午−午後3 時に、法政大学現代法研究所会議室で開催されました。28 名の入会申込の仮承認がなされたほか、2003 年度決算および2004 年度予算案、2003 年度研究大会企画案、2004 − 2006 年期理事・評議員選挙方法、50 周年記念行事などの案件が審議され、それぞれ決定されました。
 ○それに引き続き、第4 回理事会が2004 年5 月22 日(土)午後3 時15 分− 5 時半に、法政大学現代法研究所で開催されました。審議事項は以下のとおりです。

  1. 56 名の入会申込が承認されました。
  2. 70 歳以上の高齢会員の会費について、経済的負担などを考慮し、1 万円に減額することを決定しました。
  3. 2002 年度決算、2004 年度予算がそれぞれ審議の上、承認されました。
  4. 2004 年度研究大会の企画案が承認されました。
  5. 国際政治学会創立50 周年記念大会を2006 年10 月13 日− 15 日、かずさアカデミアパークで、「新時代の国際関係−協調と対立」をテーマに開催することを決定しました。
  6. 2004 − 2006 年期理事・評議員選挙実施のため、選挙管理委員会を設置し、委員長に山本武彦会員、副委員長に納家政嗣会員をそれぞれ委嘱することを決定しました。
 ○ 6 月下旬から7 月中旬にかけて行われる評議員選挙は、昨年改定された申し合わせに基づいて実施されます。詳細については、選挙管理委員会からお知らせがあると思います。会員の皆様の積極的なご参加をお願い申し上げます。(事務局長:李鍾元)

≪委員会便り≫

《前号記事の訂正》

 ニューズレター101 号でお知らせした分科会責任者の連絡先に誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします。(訂正内容については、お送りしたニューズレターをご参照ください。)

《『日本国際政治学会の半世紀』の配布について》

 前号でお伝えしました通り、本学会の歩みをまとめた『日本国際政治学会の半世紀』(座談会編、活動年表編、歴代役員編の3 部構成で70 頁弱、B5 版)を、希望者に郵送でお送りしてきました。
 前号では締め切りを4 月末とお伝えしましたが、ご好評につき、これを7 月末まで延長いたします。ご希望の方は200 円切手(送料)と送付先住所、氏名を記入した紙片を同封のうえ、NL 委員・波多野あてに郵送してください。
 なお、ある程度希望者がまとまった段階で発送いたしますので、多少、時間がかかる場合があります。予め御了承ください。
 海外在住の会員は切手の同封は不要です。
(ニューズレター委員会)

《2004 年度国際学術交流基金助成について》

【申請資格】
 40 歳前後までの正会員(選考に際しては若手を優先します。また申請年度を含め、継続して2 年以上会費が納入されていることが必要です)。なお、既に助成を受けた会員、40 歳以上の会員の申請を妨げませんが優先度は低くなります。

【助成対象】
 原則として申請期限後1 年以内(第1 回は2005年5 月まで)に海外で実施予定の学会等において行う研究発表(司会、討論者などは対象となりません)。海外在住会員が他地域(日本を除く)で行う研究発表の申請も認めます。
 なお、選考の最終段階で申請年度の会費納入が確認できない場合は、選考対象外とします。

【申請方法】
 1. 日本国際政治学会一橋大学事務局宛に、80 円切手を添付した返信用封筒を同封のうえ申請用紙の送付を申し出る。
 2. 申請用紙に必要事項を記入し、他の必要書類(プログラム写し、旅費の見積り等:詳細は申請者に通知)を添付して期日までに郵送。
【申請期限】
 第1 回  2004 年7 月末日
 第2 回  2004 年11 月末日
【決定通知と助成金額】
 申請締切から2 ヶ月以内に採否を通知する予定です。1 件の助成額は当該年度の予算、申請額、採用者の数などに拠りますが、概ね欧米が8-12 万円、アジアが4-6 万円程度です。なおご質問等は一橋事務局にお願いいたします。
(国際学術交流基金委員会主任:菅英輝)

《『国際政治』142 号特集論文募集》

 『国際政治』142 号(2005 年8 月刊行予定)は、「新しい欧州」を特集テーマとすることになりました。特集論文を公募いたしますので、奮ってご投稿ください。
 2004 年5 月1 日よりEU は25 カ国、NATO は同年3 月末より26 カ国となり、旧東ヨーロッパのほとんどの部分を含む拡大欧州が誕生しました。冷戦終焉後15 年、旧社会主義国の中東欧は、短期間で政治経済法体系を整えることによって「ヨーロッパ回帰」を果たし、拡大欧州は、今や人口4 億5 千万人、GDP9 兆ドルをこえる、アメリカに並ぶ大経済圏を達成し、他の地域における地域協力をも促し、国際関係における国家のあり方にも変容を突きつけています。他方で、拡大により、域内の意見の多様性、コンセンサスを形成していくことの困難さもあり、農業問題、移民問題、民主化の問題、欧州憲法条約草案など、問題も山積みされています。イラク戦争以降は、新加盟国のほとんどがアメリカを支持し、軍をイラクに派遣したことで、国際関係上も注目を浴びることとなりました。現在拡大欧州が抱えている問題に対して、課題別、地域別など様々な観点から分析していただければと存じます。
 投稿を希望される会員は、2004 年7 月末日までに、羽場久子宛、論文題目と要旨(400 字程度)をご連絡ください。全体の構成などを考慮して、改めてこちらから投稿をお願いいたします。原稿の締め切りは、2005 年4 月末日です。なお投稿論文として掲載させていただくかどうかは、最終原稿を踏まえて編集委員会が判断させていただきますので、あらかじめご承知おきください。
(編集責任者:羽場久子)

《『国際政治』独立論文への投稿募集》

 学会誌『国際政治』は昨年度より4 号体制となり、2004 年3 月に独立論文特集号の第1 号として『国際政治研究の先端 I』が刊行されました。4 号体制になり独立論文の掲載本数が増加しました。会員の皆さんの研究成果発表の機会が増えますので、研究成果を是非投稿してください。投稿は随時受け付けています。執筆要領を参照の上、編集委員会独立論文担当副主任・古城まで投稿論文をお送りください。なお、研究大会部会での報告者の方はペーパーを執筆することになりますが、その成果を投稿するようお勧めします。
(編集委員会独立論文担当副主任:古城佳子)

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「日本国際政治学会ニューズレターNo.012」
(2004年6月14日発行)
発行人 下斗米伸夫
編集人 波多野澄雄 
筑波大学人文社会科学研究科
印刷所 (株)中西印刷

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