JAIR Newsletter
日本国際政治学会ニューズレター
No.94 December 2001

地域研究と研究体制

毛里和子(早稲田大学)

  9月11日のテロ事件と米国政府の対応で受けた衝撃は人によってさまざまだろう。東アジア地域研究をして いる私がとくに感じたのは、第二次大戦中に米国で生まれた地域研究が、肝心な米国では、その真の役割を果た すことに結局失敗したのではないか、という点だった。
 地域とはなにか、地域研究とはなにかについて一つの答はない。とりあえず私は、地域研究を、国家を超える地域の事象のトータルな把握を試みるアプローチ、他者 の視点から自らを見つめなおす営為だと考えている。つまり、近代西欧社会が生んだ政治学、経済学などの社会諸科学を相対化し、そこに入りきらない人々の行為や価値にふれることで既存の社会科学を豊かにすることがで きるかもしれない、国境を越えた視点をもつことでわれわれの観念を縛りつけている「国家」という怪物から自由になれるかもしれない、という期待があるのである。ところが、米国の地域研究は、結局のところ、第二次大 戦中の戦略的および政策的地域研究から一歩も出ることができなかったのではないだろうか。
 日本の地域研究はどうだろうか。ほんの一端しか知らないが、少なくとも次のことは言えると思う。ここ数年来、文部省科学研究費特定領域研究で、スラブ世界、中国、南アジア、西アジアなどを対象に多数の中堅若手の 研究者を集めた地域研究が進み、それぞれ学際的接近をめざし、メンバーは、日本の当面の戦略的課題への即答を求めるのではなく、理解を超える他者になんとかして迫り、そこから現代世界を見つめ直したいという学問的 欲求を共有している。問題は研究および学術の体制である。国立大学の独立法人化、行政改革、経済の低迷などのために日本の地域研究は重大な岐路に立っているようだ。国立民族学博物館地域研究企画交流センターの調査 では、国立大学や付置研究所、私立大学の各機関、特殊法人、民間など200以上の機関・組織が「地域」研究を掲げている。利用者の立場から率直に言うと、この状態は、文献史料の集中とそのサービス、研究の組織化など の面で大きな欠陥を抱えていたし、たこつぼ的で分散的で自足的傾向が強かったと思う。だが、だからといって、これらを無方向に統合、再編、廃止してよいわけがない。日本の途上国地域研究に貢献してきたアジア経済研究所 が数年前にジェトロに統合された。省庁を超えた地域研究機構に拡大再編する選択肢だってあり得たはずだ。
 最近関係者の間で、既存の組織をソフトに集合しナショナルな地域研究機構に、という動きがある。先にふれた地域研究企画交流センターでは、地域研究の総合的な推進体制を検討する委員会をこの4月に発足させ、「全国に存在する世界諸地域を対象とする諸研究機関を結合した、研究機構的な体制の構築」をめざして、各分野の専門家からの意見を集めている。また、文部科学省科学技術学術審議会に設置された人文・社会科学特別委員会では、この分野の新たな振興、国際化、人材養成のための方策を審議しているが、一部に「世界研究機構」、地域研究コンソーシアム構想もある。閉鎖性を克服して流動性の高いシステムのもとでプロジェクト型研究を行える地域研究の体制作りのためである。また日本学術会議も、 人文・社会科学系を中心に、地域学の推進と体制作りの検討を進めている。痛切に願うのは、こうした動きが一日も早く一つの流れに合流することである。
 他の分野のことは分からないが、少なくとも東アジアについては日本の地域研究は世界でも高いレベルにあると私は自負している。だが、情報の集中や効率的な提供、組織的かつ効率的な研究体制、国際化、人材養成の面で多くの問題を抱えているのは事実だ。なんとかしなけれ ば激動する「地域」を把握できなくなってしまう。内閣府のもとにできた総合科学技術会議は、「総合的戦略政策を作成し、政策推進の司令塔」を自認しているが、その長大な報告「科学技術に関する総合戦略について」(2001年3月)には、2〜3行づつ3カ所でしか人文・社会科学にふれていないし、驚くことに、「文化」という言葉は2回しか出てこない。新世紀は地域の世紀、文化復権の世紀だと考えている筆者からすると、せめて地域研究のナショナルでまた柔軟な研究体制の構築に資源を重点的に振り向けてほしい。また、そのために関連諸学会が積極的に発言していく必要があると思う。

2002年度研究大会について

2002年度研究大会における部会企画・報告の募集

企画・研究委員会主任 大芝 亮

 2002年度研究大会(11月15−17日、兵庫県・淡路夢舞台国際会議場)の部会に関して、ニューズレター前号にも掲載しましたが、会員の皆さまからさまざまなご提案やご希望をいただきたく思います。また、若い会員を中心とした自由論題(部会)についての報告希望も募集いたします。もちろん、ご希望の皆さま全員にお約束できるわけではありませんが、参考とさせていただきますので、よろしくお願いいたします。部会報告についてはペーパー提出が義務づけられていることをお忘れなく。
 2002年度部会企画案・自由論題報告希望をお持ちの方は、以下の要領で応募してください。
 (1)明記してほしいこと
    ・ 氏名、所属、連絡先(住所、電話番号、e-mail等)。
    ・ 部会企画案もしくは自由論題報告テーマ、およびいずれの場合も趣旨(300-400字程度、それ以上でも結構です)。
 (2)応募先:郵便、FAXもしくはe-mailにて下記までお送りください。
      一橋大学法学部 大芝 亮
 (3)締め切り:2001年12月20日。
 なお、今回から応募用紙は配布しませんので、応募者の方は以上の点の記入漏れがないようにご確認ください。その他、企画・研究に関するご意見・アドバイスも大歓迎です。

2002年度研究大会における分科会報告の募集

分科会・代表幹事 高松基之

 分科会での報告を希望する人は該当する分科会責任者(ニューズレターNo.93参照)に、2002年1月末日までに申し込んでください。

≪2001年度研究大会の概要:続報≫

部会B−3 WTOが国際政治に与える影響
1、渡辺頼純会員、大妻女子大学、「WTOと地域主義の相克」渡辺会員は1999年のWTO閣僚会議失敗の原因は主催国・米国の会議成功への強い意欲の欠如、米国と欧州・日本の間の不一致のほかに、地域統合の急拡大があるとする。WTO体制のもとで地域統合が進んだのは早期に成立し、グローバルな自由化への先兵としてセカンド・ベストの意味がある。いまや欧州、米国を中核とする西半球など多くの地域で進展している。地域統合に残されてきた東アジアでも日本、韓国、シンガポールなどに自由貿易協定締結の動きがあるが、WTO体制の発展が平行的に進められる必要があるとする。
2、中達啓示会員、立命館大学「貿易交渉の本質ー中国のWTO加盟に関する研究」中達会員は中国のWTO加盟交渉を分析し、極めて政治経済学的対象だとした。すなわち、中国の経済的な重要性に拘わらず、加盟に大きな遅延があったのは、政治的な理由だとする。中国の加盟には日本を始めアジア諸国からの支持があったが、最大の貿易国・アメリカとの交渉が長引いた。人権、武器移転、スパイ疑惑、ボスニア誤爆など多くの政治的要素の影響を受けたとする。
3、大矢根聡会員、金沢大学「WTOと通商政策ーシアトル閣僚会議失敗を巡る政治変動」大矢根会員はWTO発足後、紛争処理が進展し、法の支配の浸透があったが、なぜ、閣僚会議が失敗したかと設問する。会議の失敗そのものは加盟国の立場の不一致、調整メカニズムの不調,NGOの登場などにあるが、さらにその背後の状況としてWTOの規制がより広範に、極めて強化され、各国の「通商」政策の枠を越えていた。GATT時代の埋め込まれた自由主義が脱・埋め込に転じる状況にあり、各国の国内措置との摩擦が高まったとする。特にアメリカについては、労働、人権、環境、競争政策などの問題が通商政策への要求を高めていたが、このような状況の対応にクリントン政権は失敗したとする。
4、飯田敬輔会員、青山学院大学、討論者渡辺報告に対し、地域的取り決め(RTA)のメリット、デメリットについて政策決定担当者はどの様に理解していたか、日本がこれまで消極的だったRTAに対し、近年積極化した理由を知りたいとした。また、大矢根報告に対し、労働、環境、人権問題とWTO,NGOの問題に関し、理論的整理が必要ではないかとした。中達報告については中国の加盟がロシアの加盟問題も含め、西側クラブからの変化としてとらえれば、より国際政治への影響というテーマになるとした。
5、討論は渡辺、大矢根報告への質疑を一括し、ついで中達報告への質疑に移った。WTOが紛争処理を通じて、慣例法による国際貿易法の形成ともいうべき重要な過程にあるが、日本人職員の参加が驚くべき低水準にあることが指摘された。

(坂本正弘:中央大学)

部会C−1 転換期のアメリカ
 冷戦期から冷戦後期への転換期に当たる米クリントン政権の2期8年間の内政、外交を回顧し、そのかかわり具合を分析するのが本部会の狙いであった。先ず久保文明会員は、クリントンの下で生じた国内政治の諸相について概観し、政策的変化を跡づけ、有権者構造の変化に触れ、特に『ニュー・デモクラット』の動きについて詳細な報告がなされた。
 高松基之会員は外交をとりあげ、クリントン大統領が戦後では初めて民主党の大統領として2期8年間を務め上げ、性スキャンダルで弾劾されたにもかかわらず65%という高い支持率を維持し得た原因を分析し、さまざまな内政上の原因を挙げる一方、それがなぜ外交に反映しなかったかを分析した。特に@中国との関係、Aロシアとの関係、B地域紛争への対処、C同盟国日本との関係、D中東問題への対応などの具体的事例を挙げながら、その特徴と問題点を明らかにした。特に超大国アメリカの大統領としての評価は、外交面でどのようにリーダーシップを発揮したかが、問われることを指摘し、その点で大統領自身が「外交政策やアメリカと世界の関わりにもっと関心を持つよう米国民を説得できたとは思っていない」と述べている点を強く指摘した。
ステファニー・ウェストン会員は、冷戦後初めて選ばれた米大統領としてのクリントンは、不確定な世界秩序への対応に直面せざるを得なかったことを指摘し、かつては米国の外交政策決定を容易にした米ソ対立はもはや重要性において低いものとなり、代わって国内紛争、核の拡散、テロ、環境破壊、グローバル化など新たな要因が登場したことを指摘した。その中でクリントン大統領は安全保障、経済、民主主義を外交の3本柱と位置づけ新太平洋共同体構想を打ち出したことを評価し、これが今後の東アジア地域における米国の積極的な政策展開に貢献することに期待を表明した。
 最後に西崎会員から総括的なコメントが3人の報告に対してなされた。

(宇佐美 滋:日本大学)

分科会A‐4 アフリカ分科会
 落合雄彦(東海大学)「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)によるシエラレオネ紛争への介入―平和維持か政権維持か」および片岡貞治(日本国際問題研究所)「コンゴ(民)情勢と国際社会の対応」の二つの報告と討論(討論者:青木一能・日本大学、その他フロアからも討論参加)が行われた。ポスト冷戦期アフリカの最大の問題のひとつは、紛争の一層の多発とその深刻化である。落合報告は、西アフリカのもっとも有力な地域機構であるECOWASの平和維持機能をECOMOG(ECOWAS停戦監視団)によるシエラレオネ紛争介入を事例として考察したものであるが、とくにECOMOGを「アフリカ域内で広く見られた軍隊貸借関係が従来の二国間から多国間の安全保障枠組へと変容したもの」とする新たな視点が注目された。片岡報告は、周辺諸国の軍事介入を呼んで「アフリカ大戦」とさえ呼ばれるほど深刻化しているコンゴ(民)紛争への国際社会の対応について、フランスの役割などにも注目しながら、内外の詳細な情報を基に解説を加えたものである。25名の参加者を得て、現代アフリカの紛争問題についてさらに認識を深めることができた。

(小田英郎:敬愛大学)

各委員会からの報告と連絡

《編集委員会》

『国際政治』への投稿について
 学会の機関誌『国際政治』では、ご承知のように毎号特集を組んで編集を行っていますが、それとは別に、特集とは関係のない独立論文を1〜2本掲載しています。会員各位からの積極的な投稿をお待ちしています。執筆にあたっては、『国際政治』125号掲載の「編集および執筆要領」にしたがって下さい。ご投稿いただいた原稿は2名のレフェリーの判定により、掲載の可否を決めさせていただきます。
 投稿ご希望の方は、国分主任宛にオリジナル1部、藤原副主任宛にコピー3部、竹田副主任宛にコピー1部をお送り下さい。枚数は50枚(400字詰め)以内で、投稿の期限はありません。
主任 国分良成 慶応義塾大学法学部
副主任 藤原帰一(独立論文担当) 東京大学法学部
副主任 竹田いさみ(書評担当) 獨協大学法学部

『国際政治』第131号原稿再募集(2002年10月刊行予定)
 『国際政治』第131号の特集論文を前号のニュースレターに掲載しましたが、執筆応募者がやや少なかったので再度募集します。積極的に御応募下さい。
 特集タイトルは「ラテンアメリカ―民主主義の実相」(仮題)です。ほとんどのラテンアメリカ諸国は「民主化」を達成して21世紀を迎えました。しかしその「民主主義」は多くの問題点も抱えています。本特集号では、ラテンアメリカの民主主義の実相および現在の政治のあり様を考察する論文を募集します。
 論文の具体的テーマとしては以下のようなものが考えられます。(1)ラテンアメリカの「民主主義」が抱える問題点を掘り下げるもの(たとえば、いまなお続く人権侵害、過去の人権侵害の清算、軍の文民統制、委任型民主主義、法の支配の不徹底、腐敗、麻薬・犯罪・暴力など)、(2)ラテンアメリカの政治のあり方の変容(国家・社会関係の変容、国際的ファクターと国内政治の交錯)、(3)国民の政治に対する態度(民主主義制度に対する態度、政党および代表制の危機など)、(4)選挙政治(選挙制度、選挙資金および政治資金一般)、(5)個々の政治的・社会的アクターの変容(たとえば、左翼、右翼、企業家、労働運動、カトリック教会、NGOなど)。
 投稿を希望される方は、論文の題目と趣旨を600字から800字程度にまとめ、自宅・勤務先の住所、電話番号、ファクス番号、電子メールアドレスなどを明記した上で、2001年12月25日までに編集責任者に、できれば電子メールにてご応募下さい。テーマとの関係を検討した上で、執筆をお願いする方には編集責任者からご連絡いたします。論文の最終締切は5月10日、原稿の長さは註を含めて2万字(400字詰原稿用紙にして50枚)以内です。なお、論文掲載の可否はご論文提出後に決定いたしますのであらかじめご了承下さい。執筆要領については『国際政治』第125号をご覧下さい。
編集責任者:大串和雄

『国際政治』第132号原稿募集(2003年1月刊行予定)
 特集タイトル:「国際関係の制度化」(仮題)
 国際社会は伝統的にその無政府性が特徴とされてきましたが、無政府性にともなう様々な問題を克服するために、様々な制度化が試みられてきたことも事実です。理論的にも制度を単なる権力関係の反映と見る狭い意味でのリアリズムと、それに対して制度がアクターの行動を制御する独立変数であり、その効果を高く評価するいわゆる理想主義的な潮流が、つねに平行して流れていたと見ることもできます。しかし国際関係の制度化を基礎づける議論は、初期の制度論から、統合論、レジーム論、そして近年ではガバナンス論と、それなりの展開を遂げてきました。
 この特集では、このような理論面での現状を念頭におきながら、一般にグローバリゼーションという現象が進行しつつあるとされている現代の世界で、様々な課題への対処のために分野で進行している制度化への努力と、その評価を幅広くレビューしたいと思います。
 したがって、理論および経験的な考察がともにバランスよく織り込まれている論考を歓迎したいと思います。また若い研究者ののびのびとした論文の投稿を、奨励したいと思います。
 投稿を希望される方は、論文のテーマとそのねらい趣旨を、1000字以内にまとめて、2002年1月末までに、編集担当者までご送付ください。
 原稿の最終締め切りは、2002年9月15日で、原稿の長さは注を含めて400字原稿用紙50枚以内です。執筆要領は、『国際政治』125号241-5頁をご参照ください。論文掲載の可否の最終的な決定は、原稿提出後に行いますので、あらかじめご了承ください。
 編集担当者:田所昌幸

≪英文雑誌編集委員会より≫

(編集長:猪口孝)

 英文誌は2002年初までに三号分刊行される。基本的に当初考えたよりも、案ずるより生むがやすし、の感が強い。英文誌は大変順調である。
(1)寄せられる原稿は年間100本を優に越え、増加の一途を辿っている。掲載されるのは2割位である。
(2)掲載された論文は非常に優れたものが多い。創刊号はナイやハンティントン、ジェイコブソンやクラトッチウィルなど、世界の国際政治学を主導するそうそうたるかたが登場した。第二号では国家主権の特集号であるが、クラズナ−の問題作を巡って、アジアと世界で展開する新しい国際政治の特徴をより鋭く、より深く捉えるための、新しい概念道具を提示した。第二巻・第一号ではアジアの学者の世界舞台への登場は本物であるという印象を与える号にできたと思う。
(3)カッツェンスタイン、パイ、スカラピ−ノ、ワン・ガンウ−などの推薦文でもわかるように、アジアの国際政治の第一人者からの絶賛を戴いている。
(4)学会の会員からも投稿が次第に増加している。すでに、川崎剛や河野勝の論文が掲載されている。
(5)本学会がアジアから国際的一流学術誌を志向する試みを初めて行ったことがアジアで大きな刺激になっている。韓国や台湾やシンガポ−ルには似たような動きが始動している。
(6)各投稿論文は4名のレフェリ−によってコメントが与えられるが、レフェリ−の協力は地球規模で全面的に得られている。学術誌の質はレフェリ−の質によるところ甚大であり、本学術誌は恵まれている。
(7)欧米でもアジア国際政治の本格誌としての地位を既に獲得しつつある。図書館購読数が米国と英国で着実に増加している。日本のそれを凌駕している。
 このように多くの点で順調であるが、ひどく目立つ逆風が吹いている点がある。それが日本の図書館購読数である。出版社の観点からいうと、図書館購読数が刊行開始後3、4年で全世界であわせて150−250位になれば、順調である。米国と英国は着実増加の趨勢でまず心配はないが、日本の図書館購読数は伸びていない。4年後の契約更新の時に重要な指標となるのは図書館購読数である。日本の図書館購読数が大きな失望とならないように、学会会員の所属大学図書館の購読を獲得するように全力を振るってほしい。とりわけ、学会の運営委員会、理事会、分科会などで指導的な役職におられるかたには、是非とも所属大学で図書館購読を獲得していただくよう、お願いしたい。2002年で日本の図書館購読数が100となれば、学会は2003年から射程に入る契約更新交渉により強い立場が確保できようというものである。図書館購読数が多ければ、本学術誌の単価が格段に安くなるというのが、出版社の政策である。図書館購読拡大が学会の財政問題解決の鍵である。

≪対外交流委員会≫

(文責:下斗米伸夫)

 10月20日の運営委員会と理事会とでは、対外交流委員会から2点の報告事項があり、了承された。
 一つは、JAIRの上位機関である国際組織ISCCのあり方である。従来、ISA(国際研究学会)は全世界の組織としての機能を持ちつつ、しかし基本的には北米の組織であるという性格から、これとは一応自立した国際連絡組織を持つべきであるべきだ、という議論が存在してきた。2001年2月のISAシカゴ会議、とくに7月の香港会議では、ISCCを改組し、世界国際研究委員会、WISC(World International Studies Association)といった連絡組織をつくるべきこと、そこに執行書記と二人の準書記からなる機関をもうけるべきこと、が一応合意された。これを受けて9月の英国ケント会議では英国のグルーム教授より、WISCの規約草案が提示された。ここでは上記の3人体制に加え、各成員としての要件、加盟条件が提起された。各成員の加盟費は無料であるべきこと、しかし、責任書記は加盟組織にたいし、運営に必要な資金提供を要請できることが記されている。この案は、運営委員会、理事会で紹介され承認された。これからの段取りとしては各国の意見を聴取したうえ、2002年3月のニューオーリンズISA大会で審議され、了承される予定である。

●東京地区大学院生研究会の活動報告

(東京地区大学院生研究会責任者: 野崎孝弘)

 初めに、ご挨拶をさせていただきます。東京地区大学院生研究会・責任者の野崎孝弘(早稲田大学大学院)です。ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
 6月2日に早稲田大学にて、院生研究会を開催しました。共通テーマを「安全保障」とし、中根雄也会員(東京外国語大学大学院)と羽後静子会員(ヨーク大学国際安全保障研究センター研究員)に報告をお願いしました。討論者には、武者小路公秀会員(中部大学高等学術研究所所長)をお招きしました。出席者は25人、3時間半にわたる研究会でした。
 最初に、「フランスのESDIの起源−分岐点としての第五次軍装備計画法」と題し、中根会員が報告を行いました。計画法を詳細に追うなかで、欧州軍創設に伴うフランス防衛体系の変化を明らかにし、その変化の起源を探るものでした。武者小路会員は、ESDI成立の背後にある政治ダイナミクスの観点から討論を進め、人間と国家の安全保障をめぐる様々な意味空間の差異について中根会員と討議しました。続いて、責任者自身が「両報告の橋渡し役」として問題提起を行いました。軍事的諸関係・諸要素とジェンダーがともに表象的実践の猟場であることを指摘しながら、表象をめぐる闘争のメカニズムについて説明しました。最後に、「人間の安全保障と国際組織犯罪 ―ヒューマン・トラフィキングを事例として―」と題し、羽後会員が報告を行いました。羽後会員は、セックス産業と警察、犯罪組織が国境横断的な複合体をどのように形成しつつあるのかを、「人間の安全保障」とグローバルな覇権構造の観点から分析していく必要があると強調しました。その後、ご参加の方々を巻き込んで議論が展開されました。安全保障に限らず多様なテーマに議論が及び、とても有意義なひとときでした。
 今後とも院生研究会は、あらゆるアプローチに門戸を開きながら、大学院生の交流と議論の場でありつづけます。多くの方々のご参加を心から願っております。

●名古屋国際政治研究会の活動報告

 過去1年間の活動をご報告を致します。
 第122回(2000.11.24)
 南北首脳会談と朝鮮半島和平の展望
   報告者:李弘杓 氏(名古屋大学)
 第123回(2001.1.26)
 満州事変以後の日本による東アジア新秩序の模索
 報告者:熊沛彪 氏(南開大学日本研究センター)
 第124回(2001.6.13) China-U.S. Relations under Bush Administration: Issues and Prospects
 報告者:趙全勝 氏(アメリカン大学)
 第125回(2001.11.30) 日本の国際的リーダーシップ―外交戦略としての必要性と課題―
 報告者:古川浩司 氏(中京大学)
 特別例会(2001.11.26)
 米国同時テロと東アジアの安全保障
 報告者:任繽~ 氏(韓国成均館大学校)
 *問合せ:名古屋大学大学院法学研究科 定形研究室
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≪事務局だより≫

 第5回運営委員会が2001年7月13日(土)午後6時から午後8時、第6回運営委員会が2001年10月20日(土)午後1時から午後3時、第3回理事会が2001年10月20日(土)午後3時30分から午後5時30分、すべて東京大学東洋文化研究所で開催されました。各委員会から報告するものをのぞくと、主な決定事項は以下の通りです。
 (1) 第5回運営委員会で23名、第6回運営委員会で19名、合計42名の入会仮承認がなされましたが、第3回理事会ですべての入会申し込みが承認されました。
 (2) 研究分科会の内規である「研究分科会の運営について」について分科会責任者連絡会議の意向をうけ運営委員会で審議してきましたが、第6回運営委員会でまとめた成案をもとに、第3回理事会で改正しました。新しい規定は以下の通りです。

 研究分科会の運営について
 1 研究分科会は、日本国際政治学会が各専門分野における自発的研究を促進するため、必要に応じて設置する。
 2 各分科会は責任者を一名互選し、理事会に報告する。責任者の任期は原則として二年とし、一期までの再任を認める。
 3 分科会会員は原則として学会員とするが、分科会研究会へのオブザーバー参加を認める。
 4 分科会をもとに複数の研究ブロックを設置する。各研究ブロックは当該ブロック所属分科会責任者の互選によって研究ブロック幹事一名を選出し、理事会に報告する。任期は分科会責任者に準ずる。
 5 研究ブロック幹事は、企画・研究委員会および編集委員会のメンバーとする。
 6 分科会責任者連絡会議を設置する。
 7 研究ブロック幹事の中から分科会代表幹事を互選し、理事会に報告する。任期は分科会責任者に準ずる。
 8 学会は分科会活動の補助のため、室料、通信費、資料コピー代、茶菓代などを一定限度内で分科会責任者に支出することができる。
 9 各分科会は独自に名簿を作成し、会費を徴収することができる。ただし定期的に徴収する場合には理事長に報告するものとする。
 (補足)地域研究会、院生研究会も右に準ずる。

 (3) 英文・和文機関誌の発行経費の問題について議論し、経費節減のための具体的措置をとることにしました。
 (4) e-mailアドレスと専門領域を明示した会員名簿を本年度中に発行することを第5回運営委員会で決定しました。すでに会員の皆様には、調査のはがきが届いていると思いますが、12月10日(月)必着でご返送ください。

≪編集後記≫

(主任:佐々木雄太)

 2001年9月11日、衝撃的な事件が起こりました。さまざまに心を痛めている会員が多いことと推察します。国際社会はかくも悲惨なテロの再発を防止すべく、国際協力の新たな試練に立たされています。同時に、国際政治学は、「新しい戦争」を封じ込める国際協力の枠組み構築に資する理論研究や、またテロの土壌を一掃する施策を導く国際状況分析など、重要な課題を突きつけられています。
 それにしても、未曾有の事件の衝撃波に飲み込まれた短絡的な行動や議論が横行しすぎているように感じられます。国際政治研究者の真価が問われる場面であることは間違いないようです。
 2002年度研究大会の企画検討を詰める時期になりました。「淡路夢舞台」が用意されています。多くの会員の積極的な提案・提言を期待します。

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「日本国際政治学会ニューズレターNo.94」
(2001年12月1日発行)
発行人 猪口 孝
編集人 佐々木雄太 
名古屋大学大学院法学研究科 佐々木雄太研究室
印刷所 (株)理想社
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