日本国際政治学会第11回奨励賞決定のお知らせ (2019年2月28日)

2018年度日本国際政治学会 学会奨励賞の選考について

 奨励賞に選考された佐桑健太郎「地域の同盟構造と国際紛争」(『国際政治』189号)論文は、なぜ、世界には紛争と対立が続く地域と平和と協調が維持される地域とが存在するのか、という国際紛争の偏在性の問題に取り組んだものです。従来の国際紛争に関する研究は、ダイアッド(dyad)と呼ばれる二国ペアを観察単位とする分析を中心とするものであるが、本論文は、主に安全保障の外部性効果の概念に依拠しながら、地域の環境が国際紛争に与える影響を分析し、それが紛争の地理的偏在にどのような示唆を与えるかを考察しています。
 本論文は、ポスト冷戦期の国際紛争の定量的分析に関する従来の議論を踏まえながら、二つの仮説を示している。仮説A:大国との同盟関係によって一元的に支配されている地域では、そうでない地域に比べて国家の紛争行動は抑制される。仮説B:大国による同程度の支配を受けている場合、地域内で相対的に国力の高い国が弱い国よりも紛争行動が減少しやすい。
 二つの仮説の検証にあたって著者は、国連統計部が示す19の地域区分に従い、それぞれの地域について膨大な統計データを用い、複数の分析レベルの変数を導入できるマルチレベル分析(混合効果モデル)の手法によって実証分析を行っています。その結果、仮説Aは支持されなかったが仮説Bは支持された。つまり、域外大国のプレゼンスが地域全体に与える直接的、かつ一元的な抑制効果は観察されず、同時に、大国による同盟を通じた地域への関与が「地域大国」による紛争行動を抑制し、それが結果として地域の平和をもたらすという発見であり、そこに「地域」もつ独自の効果が認められます。これまでの紛争研究のように、ダイアッド・タイプが国際紛争のあり方を規定するという考え方に一石を投ずるものといえます。
 課題として、仮説Aが支持されなかったのはなぜか、その説明がないこと、また、地域外から関与する「大国」として、一定の基準のもとに米英仏露の4国を取り上げているが、4国を一律に「大国」として扱うことの妥当性、などを指摘できるものの、地域研究と紛争理論の新たな架橋の可能性を示す業績として高く評価できます。

(学会奨励賞選考委員会主任 波多野澄雄)

第11回日本国際政治学会奨励賞受賞の挨拶

佐桑健太郎

  この度は国際政治学会奨励賞をいただき、大変光栄に存じます。受賞論文は博士研究の一部で、紛争と平和の地域差が地域外の大国による関与のあり方によって説明できるのではないかという仮説を定量的なデータを用いて検証したものでした。
 この研究の背景には、近年の科学的な国家間紛争の研究の大部分がダイアッドつまり二国間関係の分析にほぼ限定されていて、国力差、民主主義、二国の経済的相互依存といった国や二国間関係の性質のみによって世界や地域の紛争と平和の問題がおおむね説明できるという、言わばミクロ還元主義的な立場を前提としていることへの疑問がありました。地域性や地理空間的な環境、ネットワーク構造、連鎖反応といった周囲のコンテクストの影響は、初めから無いと決めてかかるよりも、実際にあるのかどうか、もしあるのならどの程度なのか調べたほうがよいのではないか、という思いで始めた取り組みです。
 一連の研究はまだ途中ではありますが、賞を励みに引き続き取り組んで参ります。最後になりましたが、『国際政治』189号の大島美穂編集長および選考委員の先生方に厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。


学会奨励賞授賞式(2018年11月3日)